君と一緒に恋をしよう
#30『金平糖とくま』
 体育館から教室へと向かう途中の中庭では、津田くんたちバスケ部がイベントをやっていた。

 特別に設置されたバスケのゴール下で、シュートを決めたら点数によって景品がもらえるというゲームだ。

津田くんと目があう。彼はこっちへやって来た。

「次のクラス当番?」

「うん」

「俺も今ここ終わったから、一緒に教室戻ろうよ」

 彼は景品の中から金平糖の袋を一つ取り上げると、それを私の手の平にのせた。

「あげる」

 それを一緒に食べながら、教室に戻った。

 プラネタリウムの人の入りも、まずまず好評のようだった。受付の北見くんに手を振って、薄暗い教室の中に入り、監視員の当番につく。

「あれ、津田くんって、この時間の当番だったっけ?」

「いや、違うけど、他に行くとこないし、ここだと座れるから」

 彼は私の隣にある、空いていた椅子に座った。

 バスケ部のイベントでこんな人が来たとか、凄い高得点を出した人の話しとか、小さな子供がやって、全然ゴールに届かなくて、泣いていた話しとか、意外と上手な小学生とか、そんな話しをしている間に、あっという間に時間が過ぎた。

「志保! 交代の時間だよー」

 明るくなった教室に、奈月が入ってきた。その後ろには、市ノ瀬くんの姿が見える。

「次の予定、なんだったっけ」

 私はポケットから進行表を取り出した。

 そろそろ体育館での出し物が一旦落ち着く。

 そこから、軽音部が舞台のセッティングを始めるから、私にはその手伝いが待っている。

 彼が、私の手元をのぞき込んだ。

「お前は体育館か、俺は次の総務はなにするんだっけ?」

 そこから、一日目最終時間までの段取りを再確認する。誰にも邪魔されないで、二人で話せるのって、こういう時しかないのかな。

「終わりは、また教室のカギ?」

「そうだね」

「じゃ、ここで待ってる」

「うん」

 この学祭で、初めて誰かとした約束かもしれない。見上げると、彼はにこっと笑った。

「もう行く? 俺も行くけど」

 話し合いが終わったタイミングで、津田くんが言った。

「じゃ、途中まで一緒に行こう」

 二人で教室を出る。薄暗い室内には、奈月と市ノ瀬くんが残っていて、二人は並んで一緒に手を振った。私も手を振り返して、そこを後にする。

「軽音、最後まで見るの?」

 津田くんが聞いてきた。

「ううん、見ないと思う。だって、いつも最終公演時間を過ぎて、ブレーカー落とされるまでがお約束じゃない」

「あはは、そこまでつき合ってらんない?」

「明日の準備もあるし、私は今日は早帰り組で、明日は早出番」

「そっか、俺は今日は後で、景品の追加の買い出しに行く」

「あー、それも大変だね」

 階段を最後まで降りて、体育館への角を曲がろうとしたら、彼の手が上着の裾を引いた。

「ねぇ、ちょっとだけ、うちのイベントも見ていってよ」

 一回100円、5回シュートして、全部外しても何か景品がもらえるんだって。

 津田くんから渡されたボールで、ゴールを狙う。1回目、2回目も外した。

「あのね、もうちょっと体の向きはこう、手は、こうやって構えたほうがいいよ」

 彼は私の背後に回って、後ろから手の位置を動かしてくれる。

「目はまっすぐ、ゴールを見てて」

 彼が耳元でささやく。

 後ろから津田くんに手を引かれて、少ししゃがんでから、ボールを投げた。

 カシャンと音がして、リングに弾かれる。

「えー! 3回外すってキツくない?」

 戻ってきたボールを拾うと、彼はそのままシュートを投げた。

 彼の手を離れたボールは、さっきまでとは違う別の生き物みたいに、素直にネットの中に収まる。

「わ! じょうずー! ねぇ、もう一回やって」

「先輩、ずるいっすよ」

 後輩にからかわれながらも、彼はもう一度ゴールを入れた。

「はい、2回入りました」

「やったー」

 津田くんが選んでくれたのは、くまのぬいぐるみのキーホルダーだった。

 彼はそれを、私の胸ポケットにそっと差し込む。

「じゃ、またね」

「うん、ありがと」

 体育館へ急いで向かいながら、私はそのくまが落っこちないように、ぐっとなかへ押し込んだ。

 遅くなっちゃった、早く行かないと、時間に間に合わない。

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