なりゆき皇妃の異世界後宮物語
(すまない、と言っていた。陛下は私にキスをしたことを後悔している……)


 朱熹はたまらなく悲しい気持ちになった。


 嫌じゃなかった。ただ、驚いた。


 私を女として見ていたことに戸惑ったけれど、嬉しい気持ちもあって照れくさくなった。


 朱熹は、いつの間にか曙光を皇帝としてではなく、一人の男性として見ていたことに気が付いた。


 そして、とても好意的に思っていることを……。


「まだ餡餅も残っていることですし、美味しいお酒もたくさん用意しました。一緒に飲みましょう!」


 朱熹は気持ちを入れ替えて明るく言った。


 キスしたことは、ただの気まぐれだったのだ。


 そのことに傷付くなんて、身分不相応にも程がある。


「……そうだな」


 曙光は、複雑な思いを心の奥にしまい、微笑みを浮かべた。


 本当はもう一度唇を奪いたい。


 好きだと伝えて、君に触れたい。


 曙光ともう一度呼んでほしい。


 溢れ出そうになる思いに必死で蓋をしながら、餡餅を勢いよく頬張った。


 餡餅は驚くほど美味くて、そして少し塩辛かった。

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