なりゆき皇妃の異世界後宮物語
屋上に出ると、陽蓮はいつもの場所で、いつものように、まるで森の溶け込むように革胡を弾いていた。


 その姿を見るだけで、不思議と肩の力が抜ける。


 自由に生きる陽蓮を見るだけで、自分も少し自由になった気がした。


 陽蓮は朱熹を見ると、ニコリと笑った。


 陽蓮は不思議な男だった。学や教養が官吏以上にあるのに、欲というものがまるでない。


 自由を愛し、自由に生きる。まるで仙人のようだと朱熹は思った。


「浮かない顔をしているね」


 曲が終わると、陽蓮は朱熹に言った。


「私、そんな顔してますか?」


「うん、心のもやもやが顔に出てるよ」


「陽蓮さんにはかなわないな。何でも見抜かれちゃう」


 朱熹は両手で頬を隠しながら苦笑いを浮かべた。


 陽蓮はそんな朱熹をじっと見て、おもむろに立ち上がった。
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