なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 首を傾げながら店を後にする青年の後ろ姿を見ながら、朱熹はフーとため息を吐いた。


(いけない、つい口に出ちゃった)


 朱熹は生まれた時から、人の心の声が聴こえた。


生まれた時からとはいっても、これが普通ではないと分かったのは物心がつき始めた五歳くらいからだっただろうか。


 朱熹の特殊な能力に気が付いた両親は、絶対にこのことを誰にも言ってはいけないと固く言い聞かせた。


 朱熹の両親には特殊な能力はなかったけれど、朱熹の力を特別驚くことも気味悪く思うこともなかった。


『朱熹は朱熹、私たちの宝物』


 両親の心の声は、他人と違うことに怯える朱熹の不安をいつでも取り去ってくれた。


不思議なことに、両親の心の声はあまり聴こえなかったけれど、たまに聴こえる両親の本音はとても温かいものだった。
< 17 / 303 >

この作品をシェア

pagetop