なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「私らがそんなお役目務まるわけがないでしょう。

もう年だから宮廷まで歩くのも大儀だし、礼の仕方も分からない。

その点、朱熹に任せれば安心だ。

朱熹はどこに出しても恥ずかしくない、私らの自慢の娘だよ」


 奥さんは、とてもにこやかな笑顔で言った。


 血の繋がりなどない朱熹を、心から大切に思い娘だと言ってくれる。


 老夫婦には子供ができなかったから、朱熹が可愛くて仕方ないのだ。


 そんな風に心優しい言葉を投げかけられたら、断ることなんてできない。


それに実際、老夫婦が宮廷に行くことは体力的、精神的にもきついだろう。


 歳若く元気な朱熹が行くのが誰が考えても最善策だ。


(でも、皇帝陛下に直接お会いするなんて……。

後宮の女官でも滅多に拝見できないと聞いたわ。

とにかく、絶対に粗相をしないようにしなくては)


 最大の名誉に浮かれるよりも、重圧の方が大きかった。


 でも、うちの餡餅は天長江国一美味しいという自負がある。


その美味しい餡餅を皇帝陛下に召し上がっていただきたい。


その思いもまた強いのであった。
 
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