なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 持参した餡餅を毒見のために官吏に渡し、謁見の間へと入る。


 室内は数百人が入れるほど広く、天井には花鳥の欄間が施され、床は艶めく高級木材が使用されている。


 下座から下級官吏、武官、文官、官僚といった順に壁に沿って並んでいる。


そして上座には、一段高くなっている場所に紅の絨毯が敷かれ、中央には威風堂々と玉座が置かれていた。


 総勢二十人ほどはいるだろうか。


男性しかいない場に、女一人、しかも何の役職も持たないただの庶民がこの場にいることに酷く気づまりの悪さを感じた。


 玉座にはまだ皇帝の姿はない。


 皆、神妙な面持ちで口を閉ざし、静粛な雰囲気が部屋を満たしている。


 しかし、朱熹の耳には皆の心の声がはっきりと聴こえていた。


『餡餅、俺も食べたいな』


『ああ、座りたい。欠伸が出ないように眉間に皺を寄せておこう』
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