なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 固い表情からは想像もつかないような、億劫そうな心の声に朱熹の緊張がほぐれる。


 ただの小娘が餡餅を皇帝に献上するだけなのに召集され、心の中では面倒くさいと思っている人が殆どなのだ。


けれど、そんなことは顔には出せない。


 皇帝がお出ましになる場所には、どんな場面であっても厳戒態勢をしかなければいけないのだ。


「皇帝陛下が御会釈されます!」


 玉座の間に一番近い、高級官僚と思われる臣下が声を上げた。


 途端に空気が張りつめる。皆が一様に膝をつき、頭を下げる。


 朱熹も出入り口に一番近い下座の場所で、壁に背を向け膝をつき、右手で左の拳を包み胸の前に掲げ、頭を下げた。


 ゆっくりとした足取りの沓(くつ)の音が聞こえ、そして止まった。


 ほどなくして、高級官僚の甲高い声が会場に響き渡る。
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