なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「餡餅職人、陛下の御前へ!」


 (きた!)


 朱熹は早鐘のように打ち鳴らす胸の鼓動を抑えながら、大きく深呼吸をした。


 (落ち着くのよ、優雅に、自信を持って)


 母の教えを頭に浮かべる。


膝から血が出るほど練習した最敬礼の所作を今こそ見せる時だ。


 朱熹は、袖口に手を入れ、頭を下げたまま、膝立ちで進み出た。


 膝立ちのまま歩くのは慣れていないと体が上下左右に動いてしまい、とてもみっともない。


 礼に慣れた人は、上半身を動かさず流れるように歩くことができる。


この所作を習得しるまでにかなり練習した。


今では誰よりも上手に膝立ちで歩ける自信がある。


『ほう、これはなかなか』


『ただの庶民がよくぞここまで』


 謁見の間、中央部まで進み出て歩みを止める。
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