なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 後宮内は朱熹の話題で持ちきりだった。


 批判と賞賛に囲まれ、朱熹はそれらから逃げるように部屋に籠り続けた。


 批判だろうが、賞賛だろうが、今の朱熹にとっては、聞きたくないし考えたくない事柄だった。


 一念発起し、人生で一番の勇気を振り絞って行動に出たにも関わらず、救うことができなかった。


 もう少し早く行動に出ていれば……。


 どうして曙光に林冲の『守らなければ』という心の声が聴こえたと言わなかったのか……。


 後悔ばかりが押し寄せてきて、無力感でいっぱいだった。


(なにが皇后よ。

たった一人の命でさえ救えない。

私がもっと早く皇后であるという自覚を持っていれば。

大きな権力を持っているのにも関わらず使わないというのは、見殺しにするのと一緒。

救える力があるのに、私はできなかった……)
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