なりゆき皇妃の異世界後宮物語
身支度だけで半日かかり、朱熹はもうクタクタだった。


「紫秦明(さいしんめい)様がいらっしゃいました」


 部屋の外から女官の声が届く。


「紫秦明様?」


 誰だろうと思い、朱熹の側に仕えている女官にそれとなく聞くと、女官は冗談だと思ったらしく、笑いながら答えた。


「お兄様ですよ」


「え、誰の?」


 朱熹が聞き返すと、女官はあからさまに不審な顔を朱熹に向けた。


『あなたに決まっているでしょう。どうしてこんなことをわたくしに聞くのかしら』


 なんとなく、まずいと思った朱熹は女官から顔を背け、ドアに向かって声を掛けた。


「お兄様、待ってましたのよ。通して」


 朱熹の言葉に、先ほどのやり取りはやはり冗談だったのかと女官は納得した。


(さっぱり意味が分からないけれど、ここはきっと合わせないといけない場面ね)
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