なりゆき皇妃の異世界後宮物語
輿入れをして後宮入りしてから十日ほど経った明け六つ時、朱熹は文机に肘をつき、大きな窓から見渡せる見事な庭園を眺めながらため息を吐いた。


「暇だわ……」


 朱熹はポツリと呟いた。


 楽団の演奏会が開けそうなほど広い部屋で独り言を零しても、まるで一滴の水滴が零れたかのように儚い。


 必死に紫家の令嬢を演じているおかげで、朱熹の世話係はもちろん後宮にいる女性たちの誰もが朱熹がまさか餡餅売りの平民だとは気づいていなかった。


 それもこれも、朱熹の母から礼儀作法を徹底して仕込まれていた成果である。


 まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。


 大人しい生粋のお嬢様だと周りからは思われているが、元々の性格は活発で明るく働き者。


何もせずにじっとしていることが大の苦手なのである。


(ここで私が後宮に響き渡るくらい大声で歌い始めたらどうなるかしら)


 悪戯心がふつふつと沸いてくる。
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