なりゆき皇妃の異世界後宮物語
「こちらこそ、自己紹介が遅れてごめんね。

僕は陽蓮(ようれん)、革胡の演奏家だよ」


 陽蓮は透き通るように肌が白く、女装をしたらとてつもない美人に化けそうなほど顔が整っていた。


 柔らかな物腰とくだけた口調、浮世離れした雰囲気を持つ青年だなと思った。


「革胡?」


 朱熹が不思議そうに口にすると、陽蓮は足に挟んでいた楽器を持ち上げた。


「そう、この楽器のこと。いい音だろ。深みがあって、それでいて澄んでいる」


 陽蓮はうっとりと革胡を見つめた。


その眼差しは、好きな女性を見つめるようだった。


 朱熹は意味ありげに、何も話さずにじっと陽蓮を見つめた。


「……なに?」


 陽蓮はきょとんとした顔で朱熹を見つめ返す。


「あ、いえ、何でもないです。

なんか、誰かに似ているなと思って。

でも誰だったかは思い出せないんですけど」
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