なりゆき皇妃の異世界後宮物語
 だから、後宮内で朱熹がどう思われようと、気にしないと決めた。


(吹っ切れることも、必要ね)


 餡餅屋の老夫婦は、朱熹が皇帝に嫁いだことを喜んでいる。


 怖くて近寄りにくいと思っていた皇帝は、想像以上に優しく人徳のある方だった。


 いつまでも悲観に暮れてなどいられない。


 与えられた運命を受け入れ、前を向いて歩いていこう。


 塞ぎ込んで泣き暮らしていたわけではないけれど、モヤモヤしていた気持ちが晴れて、朱熹は本来の笑顔を取り戻していた。


(さあ、そうと決まれば、もう一度府庫に行こうかしら)


 またすぐに行こうと思っていたけれど、実は一度訪れたきりで再び行くことはできなかった。


 理由は、朱熹が後宮を出たと知った女官や側室たちの反発の声が非常に大きかったからだ。
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