亘さんは世渡り上手



「父さんは再婚しないの?」


「……バカ、冗談でも言うことじゃないぞ」


「恋ってね……いいもんだよ」


「ははっ、そうだろうな」



俺が亘さんを思い浮かべて言ったのがわかったのか、父さんは笑い出す。



「最近の理人、楽しそうだもんな」


「うん、すごい楽しいよ」


「父さんもそれを見るのが楽しいんだ」



心からの言葉なのだろう、それ以上言うことがないのが伝わってくる。


俺が恋で幸せになったからといって、父さんも同じとは限らない……んだろうな。


父さんの幸せは、俺が幸せになること、か。



「じゃあ、父さんを楽しませるためにもっと楽しまないとね」


「お、助かる」


「でも、たまには父さんも自分だけ楽しくてもいいんじゃない?」



父さんの幸せは俺の幸せ、なんて言っても、俺だって全部を父さんと共有できるわけでもないし。


俺だけの幸せがあるなら、父さんだって自分だけの幸せがあってほしい。



「変なこと言うなぁ」


「父さんは、もう少し俺以外のことを考えるべきだよ」


「うーん……」



そうして少し悩んだのち、父さんは困ったように笑って……



「わかった。じゃあ、なんかあったら理人に相談するな、先輩」



優しく頭を撫でられる。


ごまかされたようにしか思えなかったけど、はらうにはもったいない気がして、そのまま受け入れることにした。

< 252 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop