亘さんは世渡り上手



「ま、待って! わかったから……」



七瀬さんはストップをかける。


それに応じて、口を閉じた亘さん。ふぅ、と吸った息を戻していた。



「ならいいんです」


「うん……。あの……。私たち、友達に戻れるかな……」


「いいですよ」


「本当っ!?」


「はい。最も、わたしには大好きな親友と恋人が、もういますけどね」


「今さら一番になろうなんて思わないよ……」


「そうですか?」



二人は顔を見合わせて、穏やかに笑い出す。


……すごいなぁ、亘さんは。


俺ができなかったことを、簡単にやってのけてしまう。


許すどころか、怒ってもない――か。俺もそんな風に言えていたらよかったんだろうか。


まぁ、もう遅いけど。


俺が決別を選んだのに対して、亘さんは一番を引き換えに元に戻ることを選んだんだ。


二人がラインを交換し出すのをぼんやりと眺める。


七瀬さんは心から嬉しそうな表情で、目尻に少し涙がにじんでいた。



「じゃあ、わたし達はデートの続きに行きますから」


「あっ……ま、またね! 絶対また会おうね!」



ぶんぶんと手を大きく振ってくる七瀬さんに、亘さんはくすくすと笑う。


再び絡まった手は、すっかり元の温かさに戻っていたのだった。

< 271 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop