亘さんは世渡り上手


でも――それならなおさら本気の告白に偽物の言葉で答えるのはダメだ。


今まで考えていた断り文句の中から亘さんの名前を消す。


谷口の恋は遊びじゃない。


そんな好意を向けられるのは初めてだ。俺は、恋愛で本物を見たことがなかった。どの記憶も、本物のふりだった。


だから俺も本気で断りたい。


俺は、谷口に本物をあげられないから。



しばらくすると谷口と亘さんが帰ってきた。谷口は、俺の隣に八木がいることに気付くとまた焦った顔をして八木とは反対側の俺の隣に座る。


八木は眉を下げて俺を見ると、立ち上がって伸びをした。



「さて、あたしらも並んでくるか! 谷口! 行くよ!」


「え!? 今帰ってきたばっかりなのに!」


「ほれほれっ、競争だー!」


「変なところで体力使わせないでよ!」



なんていいながらも、駆けていく八木に谷口は走って付いていく。


本当に仲が良いんだな。



「本当に仲が良いんですね」



亘さんと思考が被ってしまっていた。

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