彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
夜も遅いので、声をかけることは叶わない。かと言って、絵里花は手を振ることもできない。ギュッと手すりを握りしめたまま、ただ史明を見つめ続けた。
史明もそこに立って、じっと絵里花を見つめ返してくれている。
目と目で通じ合っているだけなのに、絵里花の想いは高まって胸が張り裂けそうになる。
――好きです。……どうしようもないほど、あなたのことが大好きです。
眼差しに想いを込めながら、絵里花は心の中で語りかけた。
その想いを史明は感じ取ってくれたのか……、しばらく絵里花から視線を動かさなかったが、やがて思い切ったように下を向くと、おもむろに歩き始めた。
絵里花は史明から目を逸らさずに、街灯に照らされた夜道に小さくなっていくその背中を見守り続けた。
愛しくて愛しくて、途方もなく甘くて、苦しいくらい切なくて……。
触れ合えないから、知ることができた想い……。抱き合えなかったからこそ、深まっていく想い……。
二人を隔てる空気はこんなにも冷たいのに、心の中はこんなにも暖かい。
史明の姿が見えなくなると、絵里花は星が瞬く夜空を見上げて呟いた。
「ステキなクリスマスを、ありがとうございます……」
しんしんと更けていくイブの夜は、とても静かだった。
―― 完 ――
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