彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜



まだ一緒にいたいと絵里花は思っていたけれど、史明が自分のことを思いやってくれていることも分かっていた。


「それじゃ……」


と、名残を惜しむように振り向くと、史明は少しはにかむように口元を緩め、肩をすくめて応えてくれた。


絵里花はマンションのエントランスに向かって足を踏み出した。一歩ずつ史明から離れていってしまうのに、絵里花の足の動きはどんどん速くなり、半分小走りでエレベーターへと乗り込んだ。

早く4階の部屋にたどり着かないと、史明はあのままずっと待っていなくてはならない。その時間を1秒でも短くするために、1秒でも早く史明の姿をもう一度見るために、絵里花は部屋へと急いだ。

エレベーターから降りて、慌てて鍵を取り出しながら、玄関のドアへ。ドアを開けて照明を点けると、素早くパンプスを脱ぎ捨てる。早くしないと、史明は明かりがついたのを確認して帰ってしまうかもしれない。絵里花は荷物をソファーに放り投げて、ベランダへと駆け出た。


年の瀬の寒風が吹き渡る中、絵里花はベランダの冷たい手すりに手をついて見下ろした。

ちょうど通りからマンションの敷地内に入った所。二人がキスをしていた場所に、そのまま史明の姿はあった。ずっと絵里花の部屋を見上げていたらしく、絵里花が顔を出すとすぐに気づいてくれた。


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