甘い恋は復讐の後で
 店は天井が高く、通常の三階部分の住居スペースへと鍵を返しにいく。
 足音が聞こえたのかマスターが自ら顔を出した。

「ありがとうございます。
 ……彼女は?」

「鍵を返すだけだから下に。」

「そうですか。」

 まだ何か言いたそうなマスターが目を見据えて諭すように言った。

「伶央くん。ちゃんと捕まえておかないと逃げられてしまいますよ?
 子猫ちゃんは気まぐれですので。」

 チッ。やっぱりあいつにブシーキャットを出したのは俺へのメッセージかよ。狸めが。

 目をそらして言葉をこぼした。

「分かってます。」

「今日はやけに素直ですね。珍しい。」

 クツクツ笑うマスターを一瞥して下へと降りていく。

 否定したところで仕方のないことだ。
 確実に仕留めたいと思っているのは間違いではない。

 マスターとは捕まえておく意味合いに若干の相違があるだけで。

「心の底から素直になれるともっといいのですけれど…ね。」

 マスターの呟きは届くことはなかった。









< 75 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop