憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
それから急いで廊下を走り、あたしはある部屋に向かった。
それは女の人の死体が山積みになっていたあの奇妙な部屋だ。
あたし的には、このゲームの中で一番印象に残っていた場所だ。なんとなくだけど、そこに憑霊の右腕が隠してある気がした。
「着いた、ここだ!!」
必死に走って、あたしはその部屋の前にたどり着いた。障子を開くと……
「あっ!!」
そこには、憑霊のものらしき右腕があった。……たしかに予想通り、あったことには、あったけれど。
「なに、この数…!!」
100本どころじゃない。そこには部屋中の畳が埋め尽くされるほど大量の右腕が積まれていたのだ。
「どうすればいいのよ!! これ!!」
またパニックになった。一瞬、ふざけんな!って叫びたくなったくらいだ。
そんな自分を抑え、一回、深呼吸し、心を落ち着かせる。
この腕は、多分ほぼ全て本物を隠すためのダミーだ。でも裏を返せば、この中に一つ、絶対に本物がある。
「大丈夫。確かめる方法はある…!!」
本物は手で触れて「右腕返す、あたしの勝ち」と宣言すればゲームを終わらせることができる。一つずつ確かめれば、必ず本物にたどり着くはず!!
部屋の端から右腕の確認を始めた。
「右腕返す、あたしの勝ち! 右腕返す、あたしの勝ち! 右腕返す、あたしの勝ち! 右腕……」
いつ憑霊が追いかけて来るのか分からない! できるだけ急がないと!
何本も何本も確認していく。気の遠くなるような作業だ。今にも憑霊が来る気がして、手先がビクビクと震えた。そんな中、
「あれ? なんかこれだけ、形が違うな…」
大量の腕に混じって、一本だけ他と違う腕があった。よく見ると、それは右腕じゃなくて左腕だった。
「左腕ってことは、関係ないんだよね…」
少し引っかかったけれど、あたしは左腕を投げ捨て、本物の腕を探すのを再開した。
「右腕返す、あたしの勝ち! 右腕返す、あたしの勝ち! 右腕返す……」
何度やっても本物にはたどり着かない。まだ全体の半分も終わってないのに。
すると、廊下から……
ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ!!
……と、憑霊が這いつくばって走る足音が聞こえてきた。