御曹司とおためし新婚生活


東雲部長とのお試し結婚生活が始まってから三週間。

初日こそ押し倒されたりしたものの、以降は特に問題もなく同居生活を送っている。

上半身裸で歩く入浴後の東雲部長と鉢合わせ、程よく鍛えられたセクシーな体に思わず悲鳴をあげそうになったり、ソファーでうたた寝している部長の寝顔を見て癒されたりと、東雲ファンクラブの人なら失神物のハプニングには度々遭遇するけれど。

まあ、結婚生活としては当然の光景なのだろうなんて、必死に心頭滅却を心掛けて現在に至っている。


「衣装もBGMも素敵だったし、DVD出たら買おうかなぁ」


柔らかなオレンジ色の照明の下、グラスを置いたところで注文していたエールとハイネケンが到着した。

とりあえず乾杯すると、部長は首を傾げる。


「お前、先週も似たようなこと言ってなかったか?」

「言いました! 先週の映画もオシャレな雰囲気で良かったですよね。詐欺師が正義の味方ってのがまたかっこよくて」


先週の興奮をまた思い出していると、部長が目を細めた。

部長と生活する中で、残念ながらまだしっかりとした笑顔を拝めてはいないのだけど、わかったことがひとつ。

部長は口元に笑みは乗っていなくとも、瞳が穏やかに細められることがある。

微笑みの手前、とでもいおうか。

この時は機嫌が良く、友好的に接しているというサインなのだ。

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