きっと夢で終わらない
そんなことを考えていると、突然水が止まった。
カコン、カコンと持ち手を押しても水が出てこない。
ノズルの故障か? と覗き込むと、取っ手を押していたのを忘れて、水が顔に思いっきり噴射した。
幸い、シャワーモードにしてあったから水圧はそこまで強くなかったものの、真正面から受けた水が、変に勢い良く目に入ったものだから、痛いのと冷たいので瞼がすぐには開けられなかった。
反射的に手から滑り落ちたノズルが、地面に落ちた音が聞こえた。

なんだ。
休日にいたずらか?
誰かホースを踏んだ?
目立った嫌がらせはこれまで受けたことがなかったのに。
到頭、本格的に私を追い出す方針を立てたのだろうか。

手の甲で水を拭い去って、ポケットからハンカチを出そうとすると、すっと差し出されたチェック柄のハンカチ。
前髪からポタポタ垂れる雫のせいで視界は悪かったが、私はそのハンカチを知っていた。
見上げると目の前に立っていた、ワイシャツ姿のその人。
どくん、と心臓が跳ねる。

どうして、いるの。
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