きっと夢で終わらない
幸か不幸か、道中何事もなかった。
誰かに背中を押されて線路に落ちることも、途中で誘拐されることも、見知らぬ人に刺されることもなく、信号で足止めも食らわずに、学校に着いてしまった。

少しだけ残念に思いながらも、人ひとり通れるほど開いた裏門から入って、花壇に向かう。すぐ右手に見えるB棟の後ろでは、昨日と変わりなく、花々は咲き誇っていた。


いつものように蛇口開き、ホースを引っ張って、散水ノズルを花壇に向ける。
キラキラと水が出て、土に、葉に、花に、潤いを与えていく。

花はどれだけ太陽を浴びても、水がなければ萎れて、枯れてしまう。

きいちゃんが週末に水をあげてくれるまでは、月曜日に登校すると花は元気が無さげだったことが多かった。比較的育てやすい花ばかり植えてあるから、水を上げればすぐ調子を持ち直したけれど、毎日あげているここ数年は花の咲き方も違う。


来世は、花になりたいな。
雫を纏って輝く花に、どうしようもないお願いをする。

だって花は、分かりやすい。
どんなに太陽が照っても水をあげなければ枯れてしまうし、どんなに水をあげても太陽の光がなければ萎れてしまう。
こっちの接し方にどう感じているか、それを顕著に表してくれる。
それが、ひどく安心する。
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