社長はシングルファーザー
「もうすぐ夏休みだな予定はあるのか?」と社長に聞かれた。

「たいした予定はないんですけどねぇ。海行きます!プロのサーファーだってことは話したと思うんですが…ペア大会と言うのがあって、それに一緒に出てくれるパートナーを毎年探してます」と私が言うと、

しばらく考えて、「俺も一緒に海に行かせてもらえないか?もちろん、1日くらいでいいから」と社長は言ったので、

「もちろんいいですよ!」と私は返した。

「そのときは息子を紹介させてくれ」と言われて私は頷いた。

圭斗君に会えるのね!楽しみだわ。

「なぁ、最近、要と仲良くしすぎじゃないか?」と社長は聞いてきた。

「あーはい。要君、年近いってのもあるんですけど、 人懐こくて、肝座ってるとか尊敬しちゃうんです。物怖じせず臨機応変に対応出来るところとか…そういうところ好きだなぁって」と私が言うと、

「そうか。確かに肝は座ってる。アイツが言ってた。ビビりもせず俺の冗談も笑顔でスルーしやがったって」と社長は言った。

「アイツってカズ…篠井さんですか?」と私が言うと、

「ああ、まあなってか知り合いか?今名前で呼びそうなってたよな?最近随分仲良くしてるみたいだし?」と早速感ずかれてしまった。

この場合、何て答えれば良いの?

確かに、私と社長は付き合ってる訳ではないし、バレたところでなんの問題も無いのだけど。

てか、もう別れてるし関係はハッキリ言って無いわけだけども!

けど、酒に寄ってたと言えど、やってるしなぁ…

いやいや、そう言う問題じゃないか。

「お仕事の関係で、担当者として近づかせてもらうことは多いですね」と当たり障りなくごまかしたつもりだったがそう甘くないらしい。

「それだけか?」と鋭い眼光が私を睨む。

「どういう意味でしょうか?」と私の声は微かに震えた。

こんなとき、要君なら平然と言ってのけるのかもしれないけど。

『責任は俺がとる』とかカズト言ってたっけ…

深く考える必要は無いのよね?

私は小さく呼吸をし、

「どうしてそんなこと言うんですか?」と言ってみた。

「…なんでだろう?興味があるからかな?」って社長。

キョウミガアルカラー?

私に興味があると?社長が?あり得ないよね?

「それは…1社員への興味ですか?」って私…何バカなこと聞いてるんだろ。

こんなの、女性として好きなんですか?って言ってるようなものじゃない。

恥ずかし過ぎるわ。

「まぁ、社員としてもあるんだが…俺にとってキミは特別なんだ。そのー上手くは言えないけど…」と社長は言った。

社長の特別…?それだけで充分な破壊力を持つ。

嬉しすぎて私は照れながら、素直にありがとうございますと笑った。

「今までな、付き合った女は、圭斗のことを受け入れてくれなくて、すぐに別れたんだ。確かにデートに連れていくのはどうかと思ったけど、一人にしとけなくて、連れていったことあるけど、圭斗も苦しめたし傷つけた。俺のせいでって圭斗は思ってる。それから俺は恋愛を諦めてきた。圭斗も受け入れてくれる人と一緒にいたいとは思ってるんだけどな…って、俺、何でこんな話してるんだろ」と社長は言った。

「いいんじゃないですか?だってそれは凄く大事なことでしょ?これからは大丈夫ですよ!きっと」と私は言った。

「そんなこと言ってるけど結局自己満足なんだよな。俺は仕事にかまかけてあんまり構ってやれなかった。相手もしてやってないし、ろくに話も聞いてやらなかった。苦しい想いだけじゃなく、寂しい想いもさせてたんだ」と社長が発した言葉には申し訳ない罪悪感を含んだような言い方だった。

「圭斗君ももう高校生でしょ?充分承知してると思いますよ。けど、仕事も安定してきたことですし、もう少し構ってあげましょうよ。家族の時間大切にして。もし必要な時は呼んでくださいね?出来る限りの協力はさせてもらいますので」と私は言った。

その時は結局上手く話が流れたので、カズトとの関係に触れられることはなかった。

そのあとはまた少し楽しく飲んで、私は社長に送ってもらい、家に帰った。
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