花咲く雪に君思ふ
「ねぇ聞いた?……何でもここ最近、女ばかりが狙われる事件が多発してるそうよ?」

「聞いた聞いた。昨日も女の人が切り殺されたんでしょう?」

「なんでも首が無かったらしい」

「恐ろしいことじゃ」

……ここ最近はこの噂で持ちきりだね。

どの時代にも一人はいる、快楽殺人鬼って奴かもね。

ま、僕には関係ないけど。

人間の仕業なら、手の出しようが無いし、専門に任せるよ。

ものの怪の仕業なら話は別だけど。

「お!桃矢じゃねぇか!」

聞き覚えのある声が聞こえ、僕はあえて無視を決め込んだ。

「おいてめぇよ!無視ってどういうことだ?!」

「……うるさいよ雨水。こういう噂が飛び交っている時は、あんたとは関わらないって決めてんの」

こういう時に遭遇すると言うことは、間違いなく面倒なことになると決まっている。

「なんだよ。人を疫病神みたいに……ところで、おめぇ何処に向かってんだ?」

「親切に教えてやるわけないだろ」

「ま、良いけどよ。付いてくから」

「帰れ」

付いてこられるなんて迷惑だよ。

しかも、また肩とかに変なの乗っけてるし。

うわ、目があっちゃったからこっちに飛びかかってきたよ。

「ぐひゃっ!!」

ものの怪を祓おうと手を振ったら、偶然雨水の鼻を叩いちゃった。

いや、うっかりしてたよ。

「てんめぇ!なにしやがんだ!!」

「あーごめんごめん。ちょっと手が滑っちゃったんだよね」

「嘘つけぇぇぇぇ!!絶対俺の鼻狙っただろ!俺のこの整った鼻狙っただろ!?」

どこが整ってんだよ馬鹿なの?

「そんなことより、さっさと帰りなよ」

「俺もこっちに用があんだよ」

さっき後付いてくとか言ってただろ。

「まったくもう。勝手にしなよ」

何て言って歩いていたら、こちらに向かって風呂敷抱えた男が走ってきた。

「誰かそいつを捕まえとくれ!物取りだ!」

「任せろ!……おいこら!人の物を取るなんてこたぁいけないことだって、親に教わらなかったのか?!この雨水がせいば―ぶべらぁぁぁっ!!」

偉そうに男の前に出た雨水は、見事男に大事なところ蹴り飛ばされたね。

情けない。

今度は僕の横を通りすぎようとした男に、僕は足を出して転ばせた。

「うわっ、ぶっ!」

風呂敷持っていたせいで、もろに顔面を地面へと打ち付けたから、男は風呂敷を放り投げた。

僕は風呂敷を拾って、男を追いかけていた男に渡し、ついでに役人を呼ぶよう言ってから、地面の上でのたうち回っている雨水の首根っこを掴んだ。

そして、そのままズルズルと引きずる。

「ちょぉぉぉ!!痛ぇよ!普通に肩貸してくれよ!」

そんな雨水の不満を無視し、家まで連れていって、奴の奥さんに預けて、はい終了。

おかげで、当初の目的が果たせなかったよ。

「あれ?桃矢じゃん」

「……誠太郎」

「何してんだ?……あ、これ新作の菓子なんだけどいるか?」

ああ、最悪な日かと思ったけど、最後で目標達成できて何よりだよ。

「あれ?何か顔疲れてね?」
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