花咲く雪に君思ふ
子の心親知らず
「いらっしゃいませー!」

「……」

「おい桃矢。そんな仏頂面じゃ、お客がこないだろ?笑顔が大事だぞ!」

「……何で僕が売り子なんか!!」

目の前に並べられている菓子を凝視しながら、僕はここに来る前のことを思い出していた。


今日は特に依頼がなく、のんびりと過ごせそうだから、雪花と散歩でもしようかと思っていた矢先、誠太郎の奴が現れ、あれよあれよという間に店に連れてこられた。

そう、何の説明もなく。

雪花は呑気に「いってらっしゃい」なんて言ってたし。

「まぁまぁ。手伝ってくれた礼ならちゃんとするから、頬膨らませるの止めろよ、リスか?」

「まったく……」

「あの……」

ため息を吐きながら前へと向き直すと、いつの間にか子供が菓子を手にこっちを見ていた。

「これ、ください」

「……まいどあり」

代金を受け取り、お釣りを渡すと、誠太郎が僕の耳元に顔を寄せる。

「愛想!もっと愛想良く!」

うるさいな。

人には向き不向きがあるんだよ。

「……えと、ありがとう」

「どういたしまして」

子供は丁寧に頭を下げてから、人混みへと紛れていく。

「あの子、良く店(うち)の菓子を買いに来るんだ。確か母親が病気とか何とか言ってたな」

「……何であの子、あんな格好してんの?」

黒い髪に赤い髪紐を結んだ幼い子供は、それなりに良い家柄の子供だろう。

赤と桃色の着物の質から、それが分かる。

けれども、僕はあの子供に疑問を持った。

「あー、可愛い顔してるから気付かないかと思ったけど、案外分かるもんなんだな」

「何となく、気恥ずかしそうにしてたからね。……で、何であの子は『女装』させられてるわけ?」

僕は探るように誠太郎を見た。

「……後で教えてやるよ」

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