愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
周囲を高層マンションと商業ビルに囲まれ、時代から取り残されたかのようにひっそりと構えるこの建物は、築六十年ほどの二階建ての木造家屋である。

そのため、一日のうち、ほんの数時間しか日が差し込まない。

居間の南側はガラス戸を開け放して、濡れ縁側と小さな庭が見える。

ビルの隙間を縫って吹き込む風が軒下の風鈴を鳴らし、周囲の他の建物よりは涼しい住まいなのではないかと思われた。


ここは祖母と孫娘の私、小川有紀子(おがわゆきこ)が営む下宿屋、【紫陽花(あじさい)荘】。

風呂トイレ共同でも、貸し部屋は全て埋まっている。

電車の駅に近く、繁華街はすぐそこという好立地条件の中で、朝夕二食付きで家賃が四万三千円という安さが人気の理由だと思われた。

六人いる下宿人は男性のみで、大学生が三人と会社員がふたり、それと八十一歳になる横谷さんという名のおじいさんがひとり、という内訳だ。


六枚の座布団には五人の下宿人が座り、「いただきます」と食べ始める。

大皿に盛られた根菜の煮物を、横谷さんの分だけ、私が小皿に取り分ける。

何十年も紫陽花荘に住んでくれている横谷さんは、最近足腰も目も弱り、私は心配している。

「固かったらごめんなさい。細かく切りましょうか?」と問いかけると、ごぼうを口に入れた横谷さんは、「いや、大丈夫だよ。柔らかく炊いてある。ありがとう」と答えて、問題なく咀嚼していた。

安心して立ち上がった私に、冷たい麦茶を人数分のグラスに注いでいる祖母が声をかける。
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