【短編】記憶の香り
確信〜伝えたい想い〜
 彼女が店を出て数分後、俺の酔いは完全に醒(さ)めていた。

 途中から酒を飲んでなかったのと、外に出たからだろう。

 そして、重大なことに気がついた。

 彼女が話しかけてきた時、懐かしい感じがしたのはどこか似ているからじゃないんだ。

 美容室で売っているシャンプーと、珍しいブランドの香水が混ざり合った時の匂い……。

 あの匂いがしたからなんだ。

 俺はマスターにツケにしといて!
と言って、店を飛び出した。

 店を飛び出す時、背中の方で頑張れよと聞こえたような気がした。

 上着も着ずに出て来た為、走っていると寒い風が肌を刺すように感じた。

 それでも、走るのをやめなかった。

 喫茶店にマンガ喫茶、ファストフード店、色んな所を探したけれど見つかはなかった。

「っはぁ……クソッ!」

 俺は息を切らしながら、力いっぱい電柱を殴り付けた。

 そうか!

 俺はまた走り出しながら、自分はかなりの間抜けだと思った。

 ここに住んでるハズはない。

 じゃあ、駅に向かってるハズだ。

 まだ彼女がユリだという確信があるわけじゃなかった。

 それでも何もしないよりはマシだ。

 だから、走った。ここ数年間で1番の全速力で駅まで走った。

 そして、駅の向かい側のホームで待つ彼女を見つけた。

 俺は改札口を飛び越え、注意する駅員を無視してホームへと入った。

 その時、電車が到着した。

「クソッ、何でだよ!行くな!止まってくれ!」

 俺は到着した電車に向かって精一杯叫んだ。

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