【短編】記憶の香り
 ゆっくりと歩いたつもりだったけれど、気がつくともう駅に着いていた。

 切符を買って改札口に入り、歩道橋を渡って向かい側のホームへ向かった。

 私は泣かなかった自分を褒めて、ご褒美にホットレモンティーを買った。

 そして、私はこの街に二度と来ないことを決めた。

 その途端、ジュンとの思い出が次々と頭に浮かんだ。

 二人で二つのクレープを食べ合ったこと、遊園地に行ったこと、私がジュンの髪を切ってあげたこと。

 他にも数えきれない程の思い出。

 走馬灯ってこんな風なのかな?

 そんな風に思いながら、ホットレモンティーを飲み終えた頃、ちょうど良く電車が来た。

 さようなら、ジュン……。

 私は電車のドアの前に立ち、最後の別れを言った。
< 14 / 16 >

この作品をシェア

pagetop