【短編】記憶の香り
 電車が駅を出発する。

 私はその電車を見送っていた。

 私の意気地無し!
ジュンは私のことに気付いてくれてるハズないのに、最後の最後で決心が鈍ってしまった。

 仕方なく、次の電車を待とうと腰を下ろした時、視界の端にジュンが居たような気がした。

 私はしっかりと改札口側を見つめた。

 そこにジュンの姿は無かった。

 幻……か。私どうかしちゃってるな。





「っはぁ、はぁ。あのさ、俺のおごりって言ってたのに……」

 ジュンが歩道橋から駆け降りてきたのだ。

 私はしっかりと瞬きをして、もう一度しっかりと見た。

 幻だと思っていたんだけれど、確かにジュンが目の前にいる。

 「……じゃなくて、変なこと言ってるなら、ごめん。
でも、俺は何故か確信みたいなものを持ってしまったんだ。
ユリ!俺はお前を愛してる!何があったか知らないけど、全て許せるし……だから、答えをくれ!」

 ジュンの目が涙で溢れるのが見えた。

 もちろん、こぼしてはいない。

「ジュン……めんッ。ごめん。私……」

 私は溢れる涙を、これ以上堪えることができなかった。

「そう。やっぱり、この香り。いいよ。いいんだ。もう少しで、一生見失う所だった。
話しは落ち着いてからでいいから」

 ジュンはそう言って優しく抱きしめてくれた。

 そして、甘い甘いキスをくれた。

 私達を祝福するように空には鮮やかで大きな虹が掛かっていた。



2008.10.25
発案
2008.10.30
執筆開始
2008.11.2
完結

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