【短編】記憶の香り
 この日も私はバーに行った。

 店に入ると、カウンターのあの場所でテキーラを飲み干す横顔が1番に目に入った。

 見間違えるハズがない。

 あれは、間違いなくジュンだ。

 3年半通い続けてようやく会えた。

 私は涙が出そうになるのを堪えながら、しばらく遠くから見つめていた。

 元気なジュンを期待したのに、何だか辛そうだ。

 私は自分の中で、絶対にしないと決めていたのに、辛そうなジュンを見ていたら我慢できなくなっていたんだ。

「おごるよ」

 振り返ったジュンは、一瞬物思いに更けるような顔をしたように見えた。

 それから、すぐに新顔と思って気を使ってくれた。

 話しをしていくと、ジュンは今でも私を思ってくれていることを知った。

 それと同時に、こんなに辛い思いをしているのも私のせいなんだと分かった。

 背がスラリと高くて遊びなれてる感じがするジュンが、ここまで想ってくれてるなんて正直、考えもしなかった。

 そう思うと胸が締め付けられて、涙が溢れ出そうになるのを堪えるのに必死だった。

 できることなら真実を話したい。

 でも、私にそんなことする資格なんてないんだ。

 私はジュンの話しを聞いてるフリをしながら、遠くを見つめた。
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