春雷

高村先生の話によると、
後期のテストに出席する回数が少なく、
授業出席数もギリギリな男子学生がいたそうで、留年するかしないかの瀬戸際だったそうだ。

その上、恋人に、暴力をふるっているとの噂があり、ついに彼女側からの相談があったので、
琴葉さんは、つい、呼び出して尋ねてしまったそうだ。

男子学生の逆恨みを買い、
「あんたに何がわかるんだ」と、
突然荒れ狂い、研究室の鍵をしめ、
琴葉さんの顔を殴りつけたそうだ。
琴葉さんも応戦し、あらゆる物を投げ付けたそうだが、男子学生が尋常ではなかった。

「薬物反応が出たそうです」

高村先生は冷たく言い放った。

高村先生が、窓を割って入り、研究室の鍵を開け、他の先生が二人待機していて、男子学生を押さえ込んだらしい。その後事務所の人が呼んだ警察も来てくれたそうだ。

お腹なども、痣があるらしいが、
内臓は出血していないそうで、骨折などもなかった。腕の怪我が一番酷いのは、頭や顔を、手で守っていたからだろうと、ドクターが言っていたらしい。

お節介だと言えばそれまでだけど
ここまでされる必要はなかったはずだ。

「琴葉さん、怖かっただろうなぁ‥」
聞くに耐えない。

「ええ。本当に。部屋で見つけた時から、さっきまで、ずっと震えていたんです」

私は琴葉さんの冷たく血の気のない手を握った。

その感触に、
亡くなったママの手を思い出した。

また涙が出た。

生きていてくれてよかった‥



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