春雷
会場前には、すでに若い女の子達が溢れていた。
レッドイーグルの様々なグッズを身につけて楽しそうに笑っている。
「わあ!グッズの列、やっぱすごいね!
琴葉さんと高村先生は並ぶ?」
「んー、私、まだ顔のアザが残ってるし、あんまり見られたくないんだよね‥。先に会場、入っておくわ」
「僕はあまりグッズには興味はないので、柴田先生と会場にいきます」
「わかりましたー!じゃあ後で!」
手を振って、由乃ちゃんは列の最後尾に走っていった。
こんな若い女の子達に混じって顔にアザ作ったおばさんがグッズの列に並んでいたらさぞ奇妙だろう。
アザの痛みはないけれど、あの日の事を思い出してしまい、少し憂鬱になり、自然に下を向いて歩いた。
「柴田先生、気にしないで」
頭上から高村先生の優しい声が聞こえる。
そういうと、彼はさらっと
私の手を握った。
「!た、高村せんせっ‥っ!」
びっくりして手を引こうとしたら、彼は少し強く握りしめた。
「あ、接触感染が気になりますか?そんな接触で感染するウイルスは持っていませんが、なんならアルコール除菌してきましょうか?」
「違います!違います!そうじゃなくて‥」
「じゃあいいじゃないですか。お友達でしょ?
僕たちは」
さ、行きましょうと、会場へ進んで行く。
「いや、由乃ちゃんに見られてたら、絶対勘違いしますよ⁈」
「そこは抜かりなく。由乃さんの角度からは僕たちは見えません」
こんなに大胆な人だったのか?
最初に会った時には予想もしていなかった‥。
「ずっと、柴田先生、元気がなかったけれど、今日は朝から楽しそうで、僕も嬉しかったんです。やっぱり貴女は笑っている方が素敵だ」
彼はにっこりと微笑んだ。
「高村先生、ほんとにそういうこと、サラッといっちゃうんですね‥。私は心臓に悪いです」
「ああ、それは申し訳ありません。
多分僕は気分が高揚しているんです。あ、そうだ、柴田先生」
「はい、何でしょうか?」
「僕、今日がんばってサインボール取りますよ!」
「あはは、それは是非お願いします!」
「はい!じゃあ、もし取れたら、ご褒美ください!僕とフランスに遊びに行きましょう!」
へっ?!
「フランス⁈ですか?!」
「はい!もちろん、お友達として!」
「なんでまた、フランスですか?」
いや、そりゃ、国内旅行でも決行ならとんでもないことになるけどね。
「あ、フランスお嫌いですか?」
「いや、違います、違います、サインボールとったら旅行とか、あまりに突拍子で‥」
「まあいいじゃないですか!柴田先生、夢はでっかく、ね?よし!サインボールがんばるぞー!」
私と繋いだ手をブンブンと振り回して、私はされるがままだった。
この人のペースに振り回されると、
とんでもない事になりそうだ‥