42歳 主婦 旦那様に片思い中【佳作受賞】
王子さまとお姫様
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王子さまとお姫様

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「んー、おいし〜!!」

私は、河上屋の栗きんとんを頬張って言った。

おせちの栗きんとんではなく、茶巾に絞った和菓子の栗きんとん。

口に入れた途端にほろりと崩れて、上品な甘さが口いっぱいに広がる。

今日、純ちゃんが、会社帰りにショッピングモールの物産展によって、栗きんとんを買ってきてくれた。

「咲笑、これ、好きだろ?
会社で同僚が、あそこで今日まで売ってる
って、教えてくれたから。」

そう言って、帰るなり、はにかんだ笑顔で紙袋を渡してくれた。

この栗きんとん、1個250円もする!!

だから、主婦としては、どんなに大好きでも、
「これ3個でお肉が買えるなぁ。」
という考えが頭をよぎり、自分では買えない。

そんな私の我慢を知ってか知らずか、純ちゃんは、なんと10個入りの箱を買ってきた。

つまり2500円!!

「純ちゃん、だいすき!!
ありがとう!!」

私は、食事を終えたばかりの純ちゃんを、椅子の背後からぎゅっと抱きしめた。

純ちゃんは、

「どう致しまして。」

と微笑む。

苑は、そんな私たちには、全く興味を示さず、箱を眺めている。

「ねぇ、私、4個食べてもいい?」

10個入りを3人家族で分けると1個余る。
あなたの興味は、そこなのね。

ところが、

「ええ!?
お母さんに買ってきたんだけど。」

と純ちゃん。

嘘!? 何、それ!?
めっちゃ、嬉しい〜!!
その純ちゃんの気持ちにきゅんきゅんする。

だけど、そこは私も大人。

母として、

「いいよ。
苑、食べたいんでしょ?」

と譲ってあげた。

すると、純ちゃんが、

「じゃあ、咲笑には、俺のをあげる。」

と言ってくれた。

「え? いいよ。
お父さんのが2個になっちゃうでしょ?
せっかく買ってきたのに。」

私が言うと、純ちゃんは私の耳元に顔を寄せて、

「大丈夫。
俺は、栗きんとんを食べた咲笑をあとで
食べるから。」

と囁いた。

それって、それって…
キャー!!

目の前に娘がいるのに、動揺が隠せない。

「お父さん、娘の前でイチャイチャしないで
くれる?
恥ずかしい!」

苑。
聞こえてないはずなのに、なぜ、分かる!?

「しょうがないじゃん。
お父さんは、お母さんが大好きなんだから。」

純ちゃん!?
それを思春期の娘に向かって言うのは、どうなのかしら。

苑は、ため息をひとつ吐いて、栗きんとん片手に自分の部屋へ行ってしまった。
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