極上恋慕~エリート専務はケダモノでした

「運転手さん、三軒茶屋までこれでお願いします」

 お札を運転手に直接渡す彼は、乗り込む様子がない。


「えっ、永縞さんは?」
「俺はいいの。気を付けて帰って」

 驚いている万佑の手をさらに引き、環は屈んだまま彼女の耳元に顔を寄せた。


「……好きだよ」

 瞳を揺らして戸惑う万佑と、見つめ合う。

(本当、伝わってなかったんだな)

「じゃあね、また近々」
「あのっ」

 万佑の声を遮って、バタンとタクシーのドアが閉まり、車窓越しに環と見つめ合う。
 そして走り出した車中から、どちらが見送っているのかわからないくらい、万佑は彼の姿が見えなくなるまで見届けた。

 小さく手を振る彼の、甘い声が頭の中でこだまする。

(勘違いってこういうことだったの? 離さないって言われたのは、特別な気持ちがあるからなの? 好きって、つまり……)

 不意を突いてストレートな告白を受けた万佑は熱い頬を両手に隠し、車窓に視線を投げた。

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