極上恋慕~エリート専務はケダモノでした
「タクシーで帰ろう」
「電車で大丈夫ですよ? 終電でもないし」
「いいの。ひとりにするのは心配だし、寒い中歩かせたくないんだよ。だから、言うこと聞いて」
「……はい」
彼は、私にだけ特別に優しいのだろうか。
一緒に過ごしていて冷たいと感じたことはないけれど、手を繋がれたり、心配されるような間柄ではなかったはずだ。
他の女性にも同じようにしているなら、単に彼が紳士的な人柄だと思える反面、ほんの少しつまらない気持ちになりそうで、万佑は深く考えるのをやめようと思った。
どちらにしても、彼が求めているのはレクチャー役と飲み仲間の関係なのだから。
駅構内へ向かう人波に逆らうように、タクシー乗り場に並んだ。
「永縞さんは中目黒に住んでるんでしたよね?」
「そうだよ」
(最初に永縞さんの家に寄ってから帰ろう)
万佑がルートを考えていると、順が回ってきて、タクシーの後部ドアが自動で開いた。
先に乗り込んだ万佑は奥に詰めようと腰を浮かせる。
すると、環が彼女の手を掴んで、それを引き留めた。