極上恋慕~エリート専務はケダモノでした

 トイレを出て廊下を歩いていると、偶然環がエレベーターを降りてやってきた。

 昨日のブラックスーツの重厚な凛々しさとは違って、ライトグレーのスーツは涼しげだ。白襟とブルーのクレリックシャツは、もうじきやって来る夏の爽やかさを思わせる。

(あんなに素敵な人が、私の恋人なんだよね……。未だに信じられないというか)

 プライベートの彼しか知らなかったけれど、仕事中の彼は、つい目を奪われてしまう。社内に彼がいるのもまだ慣れないのに、遭遇するとドキドキして仕方ない。

(えっ、なんでこっちに来るの!?)

 なるべく接触は避けようとしている万佑の元へ、環は和やかな微笑みを浮かべて歩を進める。


「お疲れ様。これからちょうど広報にお邪魔するんだけど、清家さんは?」
「お疲れ様です! わ、私は席に戻るところです」

 挨拶だけで破壊力は抜群だ。
 なによりも、昨日就任したはずの環が、自分のことなど知らないのが当たり前なのに、名前を口にされると気が気じゃない。

 万佑が周りに目を配っているうちに、環は広報部の方へと歩いていってしまった。


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