雨夜の星に、願いひとつ
何を言おうとしたのか気になったけど、それ以上は聞かないことにした。

口下手で自己完結型の賢二郎は、今みたいに言いかけてやめることがよくある。わたしはそんな彼とギクシャクしないよう、あえて追求しないことで平和を保っている。

長い付き合いの中で生まれた暗黙のルールだ。


「じゃあ、行ってきます」


スーツに身をつつんだ賢二郎を玄関で見送る、いつもの光景。

行ってらっしゃいのキスも、毎朝ごく当たり前に続けてきた。

女性にしては長身のわたしと、男性にしては小柄な賢二郎は、背丈がほとんど同じ。
顔を上に向けなくていいキスは、すっかりわたしの体にインプットされている。


この先もずっと、この“いつも通り”をわたしたちは守り続けていくんだろうか――


『夢と希望って書いて、夢希さん』


玄関を出ていく賢二郎に手を振りながら、ふいにその言葉を思い出した。



誰か、教えてくれる人がいるのなら聞きたい。


わたしの未来に夢と希望は存在していますか。




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