伝説に散った龍Ⅰ
「芹那ちゃ〜ん」
「なあに」
「えっへへ」
「何、なんか楽しそうね」
「当たり前でしょ」
「おかしな子だね」
「芹那ちゃんの隣にいるだけで楽しい!」
「…ほんと。面白いねあんた」
「ありがと!!」
ーーちょうどいいバカの加減。
1言えば10聞き返してくる、
そのしつこさにすら愛着が湧く。
雪のように真っ白い肌。
ほんのり赤く染まった頬は年中無休で
くるんと上がった
女ならば誰でも羨むようなまつ毛も、どうやら天然物だという。
彼女が異性のハートを射止めてしまうことはきっと自然の摂理で
射止められてしまう男たちにも罪はなく。
それに、長い間隣で見てきたから。
自分に告白してくる男が何人いようと、彼ら全員と正面から向き合ってきた
その、小さな堂々とした背中を
一番近くで見てきたのは私だったから。
そして、そんな伊織にもついに彼氏ができ
子が親離れしていくような気持ちで見つめる私に
伊織の口からはっきりと動いた。
ーー彼は、『不良』なのだと。
瞬間、私の心臓は大きく跳ね上がる。
そんな男の彼女になるということがどういうことなのか、この子は理解しているだろうか、
伊織のハートを射止めたらしい『彼』は、伊織にしっかりと説明したのだろうかと。
私は当然の如く反対したが、
それも虚しく、伊織は私の反対をとうとう押し切ってしまった。
ーーそして何より
伊織は、その彼のことが本当に好きみたいだった。心の底から。
『いい人なんだよ、すっごく!』
そう言って力強く笑った伊織はいつにもまして綺麗で。
私も伊織が大好きだから。
伊織にこんな笑顔与える『彼』を、
私が独りよがりに侮辱するのもまたおかしな話だ。
伊織が『好きだ』と思うものは、私も大切にしたい。
そう思う。