伝説に散った龍Ⅰ













なんだかいたたまれず、そっとギターケースに手を掛ける。



その手はケースをしっとりと撫でて
もう一度伊織を真っ直ぐに見つめた。



そんな私に気づく素振りなど一ミリもなく、キャッキャウフフと飛び跳ねる伊織。



どの角度からみても可愛らしいその仕草に










ただ



突き刺さるのが良い視線ばかりではない。



ということを、忘れてはいけない。































































ーーいつものことだが、女子たちが伊織に向ける視線はいつだって鋭いのだ。



加えて、伊織はその視線を本気で無視している。










































鈍感にも程がある。
周りをちょっとは気にして欲しい。



…まあ、私は伊織が良ければなんでもいいんだけど。
































「ーーね、伊織ちゃんっ」



「わっ」



「ちょっと話したいことがあって」



「うん?」



「来てくれない?」




















たとえば、今伊織の肩を叩いたのは北見 咲良(キタミ サクラ)という女で、



彼女は多分
この学校では一番伊織を敵対視している存在で。



ただの憶測にすぎないのかもしれないけれど、だいたい間違ってはいないはずだ。



だってほら

















「駄目よ行っちゃ」



「えええ、どうして」



「とって食ったりしないわよ、別に」



彼女の視線が、こんなにも禍々しいのだから。































しかし伊織はそのことに気が付けない。
…というより、気が付かないようにしているのか。



私が直接北見に断りを入れたというのに



「分かった、ちょっと行ってくるね芹那ちゃん!」



「は?ちょ、伊織、」



「遅かったら先実験室行ってて!」



『心配しないでね』と、彼女はいとも簡単に私を置いていってしまう。



逃げ出さないのは、あの子の生まれ持った性なのかもしれない。













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