伝説に散った龍Ⅰ
「ーーきゃーっ、いい天気!」
そう叫ぶ伊織を横目に、私も空を見上げる。
「ほんとだ」
近くにあった椅子を手繰りよせ、座ってギターを構える。
それにいち早く気がついた伊織は
その大きな目を瞬かせ、全身をもってその喜びを表現してみせる。
天気はいいが、まだまだ冬本番。
冬場の屋上はやっぱり少し肌寒いはずなのに
そんな中、それでも尋常じゃない伊織のはしゃぎ方は
私まで、いとも簡単に温めてしまう。
私が芹であることを知る、家族以外の唯一の人間。
大切にしたい人。
今日はそんな伊織を思って、歌うことにしよう。
「今日は伊織のために歌おう」
「確定ファンサ、神…」
自分には素直でありたい。
そんな反応をもらえるならいくらでも歌おう。
嬉しいに決まってる。
選曲は特に拘りなく。
ーー目をつぶって、息を吸い込んだ。