伝説に散った龍Ⅰ
そうして、
クラス中が浮き足立ったまま迎えた休み時間。
案の定と言うべきか。
彼等はあれよという間に人混みに埋もれてしまった。
「伊織の彼氏は」
「近藤爽、一人だけ黒髪の」
「…、人気ね……」
「…まあ、こうなるだろうとは思ってたんだけど」
彼を探そうと背を伸ばすが
伊織の目に、最愛の彼は映らなかった。
俯いてしまった伊織。
いたたまれないその姿に、
私には彼らへの憤りすら生まれてしまう。
「伊織」
「うん?」
「私、屋上行きたい」
「あ、うん!」
未だ、表情に暗い影が落ちる。
伊織の後ろを着いて教室を出た。
「…」
教室を出る直前
真っ黒な瞳が私を見つめていたのには
気が付かないふりをした。