ちゃんと伝えられたら
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その日から、明らかに私達の関係は変わった。

坂口さんの口から発せられるのは、仕事の指示だけ。

「はい。」

私は何事もその一言で答えるようになっていた。

無表情で行う書類の作成は、皮肉な事にどんどん良いものになっていく。

これなら坂口さんから直しを受けることもない。

それには書類が回っていく寺本さんも気づいたようだ。

「篠田さんの作る会議録の精度がどんどん上がっているようですね。」

会議の後に寺本さんにそう声を掛けられた。

「そうですか。そう言ってもらえると、もっと仕事がはかどります。」

今の私は愛想笑いしか出来ない。

「坂口さんもそう思われるでしょう?」

寺本さんは私達の様子がいつもと違うのに気が付いているはずなのに、そんな風に坂口さんも話に巻き込もうとしている。

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