ちゃんと伝えられたら
そんな事をぼんやりと考えながら、私は遠くなる坂口さんの背中を見る。

もうあの背中にはきっと私は追いつけない…。

「篠田さん。」

肩を落とした私を寺本さんが追いかけて来た。

「忘れ物ですよ。これは篠田さんの持ち物ではないですか?」

駐車場に出たところで、寺田さんはノートを差し出す。

それはいつも私が覚書をしているノート。

これがないと会社に帰っても仕事が進まないところだった。

「ありがとうございます。これは大事な物なんです。」

私はホッとした様な笑顔を向けた。

だいたいこれを忘れる時点で私はいつもの自分と違っておかしい状態なのだ。

「すいません。持ち主を確認するために、チラッと中身を覗かせてもらいました。」

一瞬寺本さんの視線が私を外れてノートに向けられる。

「こんな風にメモも取っていたんですね。パソコンですべてを作業されているのかと思っていました。」

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