教育係の私が後輩から…

「泥棒?…」

でも、おかしい…
社長がこんな身体だから、警備は万全の筈。
ガラスを割る音もしなかったし、もし、鍵をこじ開けたなら、警報器が鳴った筈だ…

警報器が鳴れば、数分後には警備会社の人間が来て、何かあったときは警察に連絡することになっているのだ。

「しっ!」

社長は私の口を塞ぎ、自分口許に人差し指を当てた。

「私が見てくる間、
君はクローゼットへ隠れて居なさい。
 絶対、私が良いと言うまで、出てきてはだめ
 だぞ?」

社長は真剣な表情で、囁いた。
車椅子へ移ろうとする社長を止め、私は首を振る。

「社長、私が行きます。
社長より、私の方が防御力ありあすから?」

「確かに…こんな身体では
君どころか、自分も守れないからな?」

「あっいえ、そんなつもりでは…すいません。」

「うん。分かってる。
呉々も無茶はしないように…
危ないと思ったら、すぐ叫びなさい。
警察に連絡するから?」

私は頷いて、寝室に置いてある木刀を持ちドアをゆっくり、開け様子を窺った。

『静かに!』

『すいません。』

やはり誰かいる。
少なくとも男二人はいる。
どうする?
このまま警察に連絡する…

そんな迷いの中、何故か私はドアを開け、木刀を構え、叫んでいた。

「誰だ!? 出てこい!!」

すると私の姿に目を丸くして、ハタキを持つ割烹着姿の七本がいた。

「キャッー!!」

私の叫び声に、おたまを持った割烹着姿の誠一郎が走って来た。

えっ!?

「キャッー!」

私は自分の姿を思いだし、恥ずかしさで再び叫んだ。そんな私の後ろから、社長が現れ、

「宣美、悪い。
妻からメールが入ってたよ?」

え?…

私のあられもない姿に彼等は顔を赤くし、
七本は「マジ?」と発した。
私は我にかえり、慌てて寝室へ戻り、着替えをして、彼らの前に戻ってきた。

「なんで、あんた達が居るのよ!?」

彼等の話だと、奥様から社長と私の関係を聞いた二人は、奥様に家の鍵を借り、料理の得意な誠一郎は夕食の支度をし、そして料理の出来ない七本は掃除をしていたらしい。

奥様…
呉々も内密にと言ったのに…




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