教育係の私が後輩から…
「ヒロさん? 居る?」
「え? キクさん??」
私は慣れない松葉杖は使わず、左足でケンケンしながら玄関まで行き、ドアを開けた。するとそこには紙袋を下げたキクさんが居た。
「キクさん、どうしたの??」
「怪我したって聞いたから、飛んできたのよ?
起きてて大丈夫なの?」
起きててって…
キクさんが来たら起きるでしょ?
一応社長なんだし?
「大丈夫じゃなくても、起きてこないと、
ドア開けれないでしょ?」
「まぁそうよね?」
「玄関で立ち話もなんだから
コーヒーでも飲んでいく?
インスタントしかないけど?」
「インスタントは嫌いだから、
じゃ、お茶を頂こうかしら?」
はぁ?お茶!?
コーヒーって言ってるのに!?
まぁ、お茶も有りますけどね?
「こういう時、普通遠慮しない?」
「普通って誰から見た普通?」
でた!
この人のこの発言で、私の人生が変わったのだ。
「…もういいです。
どうぞ、御上がり下さい。」
「私達はそんな関係じゃないでしょ?」
キクさんは笑ってそう言うと、タッパーの入った紙袋を差し出した。
「えっ!?
まだ、店営業(やって)ないでしょ?」
それは、私達の行きつけの居酒屋の物で、
大好きなぬか漬けや、煮物が入っていた。
「ヒロさんが怪我したって言ったら、
喜んで用意してくれたわ?」
「それって、私が怪我をした事を喜んでの事か、
差し入れする事を喜んでの事かどっちよ!?」
「両方?…かしら? たぶん?」
何なのよ!?
ひとの不幸を喜ぶなってんだ!!
「まぁゆっくり休みなさい?
最近また頑張り過ぎなんだから?
タマちゃんも心配してるのよ?」
タマちゃんとは、行きつけの居酒屋の店主で、キクさんの幼馴染。そしてキクさんの初恋の相手である。