蜜月は始まらない
「あはー、すみません。ついうっかり」



てへっと笑って首をかしげる彼女に悪気がないのはわかっているので、こちらが逆に申し訳ない気持ちになりながらうなずいた。



「ごめんね。一応、まだ世間的には非公開の話だから……」



今回私は、根本さんと一緒にプロ野球観戦をするにあたり……一緒に住んでいる婚約者が実は東都ウィングスの柊 錫也選手なのだと、一応彼女には話しておくことにした。

あのときの根本さんの驚きっぷりは、まるで漫画のキャラのように見事だった。

例によってお昼休みの休憩室で打ち明けたのだけど、あまりにも大きな声を出したものだから、それを聞きつけた他の誰かが飛んで来ちゃうんじゃないかと思ったくらいだ。



「はいっすー。いやあでも、野球詳しくない私ですら知ってる有名な選手が元クラスメイトで、偶然お見合いすることになったうえ今は一緒に住んでるなんて……運命的ですよねぇ~」

「そう……かな」

「ですよー! あんなイケメンが同じ家の中にいたら、ドキドキして大変なことになっちゃいそう!」



私のお願いを聞いてコソコソ小声で話す彼女のセリフには、自然と苦い笑みが浮かぶ。

『ドキドキして大変なことに』、か。
まさに私がなっている状況を的確に言い当てられ、返す言葉もない。
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