蜜月は始まらない
「……今はもう、いい大人だ」

「うん? そうだねぇ、お互い歳とっちゃったよねぇ」



私のおどけた返しにも、彼の眉間にできたシワは変わらなかった。

今の会話のどこが不満だったのかわからなくて、つい首をかしげる。

そんな私を横目で眺めていた錫也くんが、少しの間のあと不意に息をついた。



「まあ……いいか。でもやっぱり、どうせなら勝ち試合を観せたかったな」



そう言って、再び正面からじっと私を見つめる。



「次に観る試合は、絶対勝つから。華乃さえよければ、また、球場に応援に来て欲しい」



真剣な声音と引き締まった表情に、ドキンと胸が高鳴った。

とっさに上手く笑うこともできず、ただコクコクとうなずく。



「うん……うん、もちろん。また絶対、観に来るよ!」



熱を込めた返事を聞いた錫也くんが、ふわりとやわらかく笑った。
その微笑みにすら、ときめいてしまう。

彼をまっすぐ見ていられなくなった私は、さりげなく目を泳がせた。



「あ……えと、錫也くん時間大丈夫?」

「ああうん、あとシャワー浴びて着替えるだけだから」

「そっか……」



あっさりうなずいた彼を見て、考える。

ということは、あと少し待っていれば……一緒に帰れる、のかな?

束の間躊躇ってから、私は意を決して口を開きかけた。



「華乃さえ、よければ──」



けれども先に錫也くんが言葉を発したので、ハッと見上げる。
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