蜜月は始まらない
本当に、困った人だと思う。いつも自覚なしに、私の心をかき乱すんだから。



「でも一応、これだけは言っとく。俺は別に、華乃を家政婦みたいに扱いたいわけじゃないから。そこはちゃんと、知ってて欲しい」



ふと真面目な表情をした錫也くんが、じっと私の目を見つめて言う。

自分の心の内を見透かされるようで、一瞬その眼差しにギクリとした。

それを隠して、私は笑顔を作る。



「……うん」



私は一体、どうするのが正解なんだろう。

……私は錫也くんと、どうなりたいんだろう。

このままではいけないと漠然と思うのに、どこにも行けない。

彼に本心を伝えることも、自分からこの生活を終わらせることもできない。

ねぇ、錫也くん、気づいて。

私とあなたじゃ、釣り合わないんだよ。

あなたなら、もっと素敵な女性が、一緒に生きてくれるはずだよ。

錫也くんが運転してくれる車は、慣れた様子で街中を走る。

胸の奥の切ない感情を持て余しながら、私は窓の外を流れていく景色を眺めた。
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