蜜月は始まらない
腰に両手をあてて胸を張り、わざとらしく『えっへん』と言わんばかりのボディーランゲージをしてみせる。

そんな私を見下ろす錫也くんは、一瞬ポカンとした顔になっていた。

だけどすぐ、さっきもやったように自分の口のあたりを片手で隠す仕草をする。



「そう……か。なら、よかった」

「うん。あ、でも錫也くんだって、たまには外でウィングスの人とか友達とプロの作ったごはん食べてきてもいいんだよ? 私ひとりでも適当にやれるし」



あの仲がいいウィングスの面々なら、チームメイトたちでしょっちゅう『ごはん行こー!』とか『飲みに行こー!』ってなりそうだ。

いつも球場からまっすぐ帰ってくる錫也くんにこそ息抜きは必要なんじゃないかと思い、私は先ほどの彼と同じような申し出をした。

けれど錫也くんは、少しも躊躇うそぶりなく首を横に振る。



「いや。華乃の作るメシが1番美味くて好きだから、わざわざ店に行くより家で食う方がいい」



言ったあとさらに微笑みまで向けられ、顔が熱くなった。

うわあ……すっごい、殺し文句だ。
錫也くん、わかってて言ってるのか無意識なのか……無意識、なんだろうなあ。
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